siratuk6’s blog

読書と英語、資格学習について書いています。

読書ノート 物語のおわり 湊かなえ

2018年 出版  朝日文庫

 短編集かと思いきや一つの物語

 

 若くして幸せな結婚のルートに乗ろうとしていた主人公。彼女の前に小説家になるチャンスが訪れる。けれど婚約者も家族も誰も賛成してくれない。夢諦めきれず、上京するために衝動的に駅に向かった彼女を持っていたのは婚約者の青年だった……。「空の彼方」

 物語はここで終わってしまう。

 

 未完の物語の原稿は北海道へ向かうフェリーの中で少女の手から、とある事情を抱えた妊婦の手へ「過去へ未来へ」、夢諦めようとする写真家の青年の手へ「花咲く丘」、クリエターを目指そうとする、或いはその関係者へと渡っていき、物語にそれぞれの結末が与えられる。

 やがて物語は北海道を旅する人々の手を借りて原点へと帰っていく。

 リレーのように物語が受け継がれ、円を描いて帰っていく構造が面白い。

 

 

 

 

 

 

読書ノート  光の帝国 ー常野物語ー   恩田陸

 

集英社文庫 ファンタジー

発行2000年。今から24年前の本。

 

 短編集で1話1話が淡々と上品な語り口だけど、そこに見えない不吉を差し込まれたような、怖さを秘めた優しい話。権力への執着を持たないが知的で穏やか、そして超常の力をもつ常野の一族。彼らはときに権力に迫害され、追い回され非業の死を遂げる。恩田陸氏の戦争の表現は背筋を寒くする。本書の中の光の帝国は優しさと残酷さが高濃度で混ざり合い、泣くしかない。

 一つ一つの話がパズルのピースになっていて、1ピースでは何を描こうとしているのかわからない。何度か繋げてみて、ようやく、これはこれと繋がるのだとわかるけど、まだ全体像は見えない。そんな感覚。